デニムはデザイナー木村にとって強い思い入れのあるアイテムである。
木村自身100本を超えるデニムのコレクションを持っているだけでなく、20年以上服作りに携わる中で、デニムのことを考えないシーズンはなかったというほど、数多くの生地に触れてきた。
まさに切っても切れない関係なのである。
このPIN TUCK DENIM TROUSERS(ピンタックデニムトラウザース)は、「着る人によって同じ洋服でも見え方が変わる」というmù_のイメージを表現した、無骨さと上品さを併せ持ったアイテムであり、木村のデニムに対する愛情が込められている。
-デニムへの思い
木村:高校生くらいのヴィンテージブームの時に興味を持ち始めて、そこからたくさん買いましたね。
最初は知識もあまりなかったなかで、ヴィンテージで価値があるといわれるようなものも結構買いました。
それから服作りの仕事をはじめて、生地屋さんや縫製工場さんに通って数えきれないほどの生地に触れていく中で、自分の中でのデニムの価値観も変わってきました。
いわゆる何年代の〇〇といった、一般的なヴィンテージとしての価値観よりも、自分にとってかっこよく見えるどうか、自分に合うかどうかということに重きを置くようになりましたね。
色落ちにしても、自分の好みかどうかが重要で、「かっこいい」と「かっこ悪い」の境界線みたいなギリギリのラインが好きだったりします。
僕自身がそうであるように、人それぞれの価値観の中で楽しめる奥が深いアイテムだと思いますし、なにしろプライベートでも仕事でも、30年以上自分の身近にあり続けているアイテムなので、思い入れは強いですね。
-PIN TUCK DENIM TROUSERSの特徴は?
木村:このブランドの根底にあるのは、「着る人によって同じ洋服でも見え方が変わる」というイメージなんです。
ですから、ただオーセンティックな5ポケットのデニムではなく、スラックスの要素も足しながら、「見る人の角度によって違う見え方がする」ということを目指しました。
生地屋さんにもご協力いただき、オリジナルの生地を開発しましたし、ディテールやギミックなどもかなり細かく追及しました。
前から見るとどこかスラックスのような雰囲気を醸し出しつつ、後ろから見ると5ポケットのような見え方をしています。
普段デニムをよく履く人にはデニムの定義の中で履くことができるし、デニムを履かない人でもこれならチャレンジしてみようかと思ってもらえる、そんなアイテムになりました。
-オリジナルのデニム生地について
木村:数年前に生地屋さんで、1950年代の精紡機で作られた糸を見せてもらったことがあって、それがずっと頭の中に残っていました。
昔の機械なので、糸を撚るスピードが現代の精紡機の1/3くらいなんです。
それによって糸の撚りが少し甘く、洗いをかけると少し撚りが戻るような感じになって柔らかな風合いが出るんですね。
でもただ柔らかいだけでなく、どこか力強さも感じさせる糸でした。
今回mù_でブランドらしいデニムを作るにあたって、ヘビーな見た目でソフトなデニムを使いたいと思い、生地屋さんに相談していたところ、この糸を使ってシャトル織機で織った生地を見せてもらいました。
昔ながらの精紡機と昔ながらの織機で作られた生地はヴィンテージライクで個人的にも嫌いじゃなかったのですが、mù_で表現したいのはヴィンテージではなく、5ポケットとスラックスの要素がミックスしたものだったので、イメージと違いました。
そこで、この糸をシャトル織機ではなく、あえて近代的な織機を使って織ってもらうことで、粗々しさを減少させ、粗野な雰囲気と上品さが両立するような生地に仕上げました。
あとは色味ですね。
感覚的な部分なので細かく伝えるのは難しいのですが、デニムらしい青みとスラックスらしい深みをこの生地の表情に合わせて出したかったので、そのバランスはすごく考えて色を決めました。
-スラックス要素
木村:まずアイコニックなのが、クリースラインのように見えるピンタックですね。
このデニム全体がそうなんですが、細かい運針でステッチを入れているので、それによってこのピンタックも繊細な雰囲気に見せています。
ただタックが開いて立ちすぎてしまうと、クリースラインに見えなくなってしまうので、ベルトループをタックの上に持ってきて抑えるという工夫もしています。
それとロールアップしたときの見え方ですね。
デニムなので、普通であればロールアップすると折り返した際に緯糸の白が出てしまってコントラストが強くなってしまう。
また裾までピンタックを入れていることによって折り返した際にピンタックがずれて気持ち悪い。
そこで手間はかかるのですが、裾を見返しにして同じ生地にし、その部分のピンタックをなくすことでスラックスをダブルで履いた時のような上品な見え方にしました。
あとはスラントポケットにすることで、正面からはよりスラックスのような見え方をすると思います。
-デニムらしさ
木村:そもそもデニムなので、何かすごく変わったことをしているというのはないんですが、上品な雰囲気の前面に対して後ろはオーセンティックな5ポケットのような見え方にしてます。
バックポケットは大きめにして、通常より少し低めにつけることで、少しだけルーズな印象をプラスしました。
また、スラックスらしい見せ方を意識した前面に、あえてコインポケットを付けることで5ポケットの要素を残しています。
他にデニムらしさと言えば経年変化ですね。
この糸が持つ特徴として、昔の機械なのでナチュラルなスラブ感が出るというのがあるんです。
現代の機械だとコンピューター制御によってムラを作っていくので、計算された縦落ちをするんですが、この精紡機で作った糸は自然なムラ感が生まれるので、昔ながらの柔らかな縦落ちをしていきます。
ステッチの色もヴィンテージデニムで使われている金茶ではなく、グレイッシュブラウンというブランドのアクセントカラーで入れているので、最初は馴染んで目立たないのですが、デニムが色落ちすることによってコントラストが出てきて、経年変化によってよりデニムらしい表情になります。
-他にこだわった部分は?
木村:細かい部分ですが、遊びの要素というかカスタムができるギミックとして、右のベルトループの下に小さなアディショナルループを付けていて、ここにカラビナやキーホルダーを引っ掛けられるようにしています。
ベルトループに引っ掛けてもいいんですが、それだと引っ掛けた鍵などをポケットにしまうときに少し無理が出てしまうので、あえて下部を固定しないアディショナルループを採用することでいろいろな使い方ができるようにしました。
-PIN TUCK DENIM TROUSERSが表現するブランドらしさとは?
木村:個人的にヴィンテージデニムは大好きなので、普段からよく履くし、たくさん持っています。
仕事でもこれまでにヴィンテージライクなデニムはたくさん作ってきました。
ただ、mù_というブランドの枠で考えた時には、これから出てくるアイテムと融合させた時にいかに面白いかというのが最も重要なんです。
ただデニムを使ったコーディネートに見えるのではなく、スラックスの要素があることで、着る人の自由度が増す。
それこそが「着る人によって完成する」というブランドの考え方にマッチしたデニムなんです。
個人的にも自分が持っていないデニムを作りたいというのもありますしね。
ヴィンテージデニムが好きだからこそ、ヴィンテージの良さは残しつつ、新しいものにアップデートしていきたいという思いがあって、そこにmù_というブランドで表現したいことが掛け合わさって具現化したアイテムと言えると思います。
PIN TUCK DENIM TROUSERS
colour:INDIGO
size:S/M/L/XL
price:¥30,800
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PIN TUCK DENIM TROUSERS INDIGO