服は生地からできている

「服は生地からできている」ということ。mù_の洋服の根っこにある、生地を化けさせるという仕事。 | mù_

「服は生地からできている」ということ。
mù_の洋服の根っこにある、生地を化けさせるという仕事。

言葉にしてしまえば当たり前のことだ。服は、生地がなければ生まれない。けれど作り手ですら、その当たり前を忘れてしまうことがある。 mù_が掲げる「服は生地からできている」というコンセプトには、そんな思いが込められている。 デザインより先に、生地と向き合う。木村にとって、それはどういうことなのか。改めて聞いた。   -改めて、「服は生地からできている」という言葉に込めた思いを教えてください。 木村:言葉だけで言えば当たり前のことなんです。でも洋服が多様化していく中で、着る人も、作る人も、意外とそこを忘れてしまっている。 服は縫製されて初めて洋服になりますが、そもそも生地がなければ何も始まらない。それは料理人が食材にこだわるのと同じで、僕にとって生地は洋服のスタートであり、一番の核になる部分なんです。 服という表面だけを見せるのではなく、その裏にある生地にもっとフォーカスされるべきだと思っている。いい洋服は、いい生地から成り立っている。その考え方を表現したいんです。   -デザインから発想するのではなく、生地から発想するということですか? 木村:両方あります。純粋に生地からスタートする場合もあれば、こういうものを作りたいというイメージが先にあって、そこに生地を当てていく場合もある。 ただ、デザインから入って理想の生地を探すのは、実はすごく難しい。理想は頭の中にしかないので、なかなか見つからないんです。結果的に、生地屋さんと話しながら一緒に作った方が早い。 だから「このデザインを作りたいから生地を探す」よりも、「この生地を見つけたから、これで何が作れるか」という発想の方が自分には多い。どちらにしても、入り口に生地がないと始まらないという点では同じです。   -「服は生地からできている」と聞くと、上質な生地を使っているというイメージを持たれると思いますが、木村さんのアプローチは少し違うように感じます。 木村:そうなんです。いい生地の定義自体、実はすごく難しくて。 単純に高級な生地を使えばいいという感覚ではないんです。例えば自分は古着が好きで、昔のワークウェアのかっこよさに惹かれてきましたが、あれは決して上質な生地を使っているわけではない。作業着として安価な生地を使って、それが長年の使用によって味が出てかっこよくなっていったものです。 高級な生地を使えば、ある程度のクオリティは担保されます。でも安価な生地の中にある美学、高級感とは違うかっこよさを引き出そうとすると、上質で光沢のある生地だけではそれは出てこない。 だから、高級な生地であっても、リーズナブルな生地であっても、それをどう加工したら化けるか、どういうデザインにしたらそのポテンシャルが引き出せるか。長年やってきた自分なりのレシピを、足し算引き算しながら考えることの方が重要なんです。   -まさに料理と同じ発想ですね。 木村:本当にそうだと思います。経験値の浅い人は、高級な食材を使ってもそこまで引き出せない。逆に、安い食材を高級料理に化けさせられるかどうかは、シェフの経験値と技量です。自分がやることで、みんなが見ている生地とは違う見え方をさせられるんじゃないか。そこに、自分にしかできないモノづくりがあると思っています。   -その「化けさせる」ということを、実際の服作りではどう体現しているんでしょうか。 木村:今年の夏に発売したTシャツで言うと、新作のMELLOW HEAVY OUNCE Tとブランドローンチの時に発売して完売になっていたSHORT SLEEVE LOGO...

「服は生地からできている」ということ。
mù_の洋服の根っこにある、生地を化けさせるという仕事。

言葉にしてしまえば当たり前のことだ。服は、生地がなければ生まれない。けれど作り手ですら、その当たり前を忘れてしまうことがある。 mù_が掲げる「服は生地からできている」というコンセプトには、そんな思いが込められている。 デザインより先に、生地と向き合う。木村にとって、それはどういうことなのか。改めて聞いた。   -改めて、「服は生地からできている」という言葉に込めた思いを教えてください。 木村:言葉だけで言えば当たり前のことなんです。でも洋服が多様化していく中で、着る人も、作る人も、意外とそこを忘れてしまっている。 服は縫製されて初めて洋服になりますが、そもそも生地がなければ何も始まらない。それは料理人が食材にこだわるのと同じで、僕にとって生地は洋服のスタートであり、一番の核になる部分なんです。 服という表面だけを見せるのではなく、その裏にある生地にもっとフォーカスされるべきだと思っている。いい洋服は、いい生地から成り立っている。その考え方を表現したいんです。   -デザインから発想するのではなく、生地から発想するということですか? 木村:両方あります。純粋に生地からスタートする場合もあれば、こういうものを作りたいというイメージが先にあって、そこに生地を当てていく場合もある。 ただ、デザインから入って理想の生地を探すのは、実はすごく難しい。理想は頭の中にしかないので、なかなか見つからないんです。結果的に、生地屋さんと話しながら一緒に作った方が早い。 だから「このデザインを作りたいから生地を探す」よりも、「この生地を見つけたから、これで何が作れるか」という発想の方が自分には多い。どちらにしても、入り口に生地がないと始まらないという点では同じです。   -「服は生地からできている」と聞くと、上質な生地を使っているというイメージを持たれると思いますが、木村さんのアプローチは少し違うように感じます。 木村:そうなんです。いい生地の定義自体、実はすごく難しくて。 単純に高級な生地を使えばいいという感覚ではないんです。例えば自分は古着が好きで、昔のワークウェアのかっこよさに惹かれてきましたが、あれは決して上質な生地を使っているわけではない。作業着として安価な生地を使って、それが長年の使用によって味が出てかっこよくなっていったものです。 高級な生地を使えば、ある程度のクオリティは担保されます。でも安価な生地の中にある美学、高級感とは違うかっこよさを引き出そうとすると、上質で光沢のある生地だけではそれは出てこない。 だから、高級な生地であっても、リーズナブルな生地であっても、それをどう加工したら化けるか、どういうデザインにしたらそのポテンシャルが引き出せるか。長年やってきた自分なりのレシピを、足し算引き算しながら考えることの方が重要なんです。   -まさに料理と同じ発想ですね。 木村:本当にそうだと思います。経験値の浅い人は、高級な食材を使ってもそこまで引き出せない。逆に、安い食材を高級料理に化けさせられるかどうかは、シェフの経験値と技量です。自分がやることで、みんなが見ている生地とは違う見え方をさせられるんじゃないか。そこに、自分にしかできないモノづくりがあると思っています。   -その「化けさせる」ということを、実際の服作りではどう体現しているんでしょうか。 木村:今年の夏に発売したTシャツで言うと、新作のMELLOW HEAVY OUNCE Tとブランドローンチの時に発売して完売になっていたSHORT SLEEVE LOGO...

創作の原点-「手で描く」こと、その余白にあるもの。 | mù_

創作の原点
-「手で描く」こと、その余白にあるもの。

幼い頃から、木村は自然と絵を描いていた。特別に習ったわけでも、意識していたわけでもない。ただ、好きだから描いていた。それが木村の創作の原点だ。 子供の視点だっからこそ描けた絵は、今でも実家に飾ってある。同じものはもう二度と描けない。だが今は、これまで触れてきた様々なものによって形作られた自分の感覚から、生み出される表現がある。自分が好きな時に、好きなものを描く。だからそれは、その時の木村にしか描けないものになる。 もともとギャラリースペースだった店舗の壁に飾られる絵は、すべて黒いペン一本で描かれている。そのモノトーンの佇まいには、見る人の感性によって受け止め方が変わるような余白がある。その余白こそが木村自身がアートを楽しむ感覚であり、mù_の洋服が持つ自由さと、自然と重なっていく。   -アート作品の発売に至った経緯を教えてください。 木村:今の店舗は、以前ギャラリーとして使われていた物件なんです。その場所の歴史を活かしたくて、もともと壁にあった穴や額縁を飾るための線もあえてそのまま残して使っています。 最初はデザイン画や落書き、コピー用紙に描いたイラストを飾っていただけで。でも、それを見た海外のお客様や若いカップルから「描いた人に会いたい」「この絵を譲ってほしい」という声をいただいて。 服以外のクリエイティブにも興味を持ってくださる方がいるなら、ちゃんと描いたものを届けたいと思い、本格的に描き始めたのがきっかけです。   -昔から絵を描くが好きだったんですか? 木村:幼稚園の頃から大好きでした。小学校の時に大阪府知事賞をもらったことがあって。 美術の専門的な勉強はしていないんですが、独学だからこそセオリーに縛られず、自由に描けるという面があると思っています。 絵を描くことが自分の創作の原点で、もし絵が好きでなければ今の仕事もしていなかったかもしれないですね。   -手で描くことにこだわっている理由は? 木村:デザインも手書きから始めるんですけど、手で描くという作業は自分の創作においてすごく重要で。 デジタルだと脳で想像したものがツールを介して綺麗に処理されすぎてしまって、微妙なニュアンスが薄れてしまう気がするんです。手書きのほうが、脳から手への伝達がダイレクトな気がしていて。例えば、服のデザインで柔らかさや質感を出したいとき、線の引き方ひとつに込める思いが、手書きのほうがそのまま出てくる感じがします。   -影響を受けたアーティストはいますか? 木村:ジェイミー・リードがすごく好きで、シリアルナンバー入りの作品を持ってるくらい。セックス・ピストルズのアートワークで知られている人ですけど、1970年代のパンクスピリットにある、世の中に対する皮肉やジョーク、既成概念を崩すような表現にずっと共感していて。単に綺麗で正しいものよりも、どこかひねりがあったり、一見グロテスクなものをかっこよく見せたりする世界観が好きなんです。 そういうものに触れてきたことが、今の自分の感覚を作っているひとつだと思います。   -作品作りで意識していることはありますか? 木村:展示では、一人の人間が描いたように見えないことを意識しています。リアルなタッチもあればアニメ調もあって、まるで多重人格者がそれぞれ描いた集合展のような多様性を出したいと思っていて。ただ、全部その時の自分の頭の中から出てきたものなので、集めてみると案外ひとつに繋がっていたりします。 描きたいものを描くというのが一番の基本で、打算的なものが入ると自分が伝えたいものとは違うものができてしまう。自分のスニーカーに落書きするような感覚と基本的には同じです。   -白黒のペンにこだわっている理由は? 木村:見ている人に自由に想像してほしいから、というのが一番の理由です。 服作りにおける余白を残すという考えと同じで、色をつけてしまうとみる人の想像がそこに誘導されてしまう。モノクロにすることで、見る人それぞれが自分の好きな色を想像して、パーソナルな感覚で受け取ってくれたらいいなと。 自分がアートを見るときも、説明を読む前にまず自分で想像して、その後に背景を調べて答え合わせをするような見方をしているので、自分が作る絵もそうあってほしいという感じですね。...

創作の原点
-「手で描く」こと、その余白にあるもの。

幼い頃から、木村は自然と絵を描いていた。特別に習ったわけでも、意識していたわけでもない。ただ、好きだから描いていた。それが木村の創作の原点だ。 子供の視点だっからこそ描けた絵は、今でも実家に飾ってある。同じものはもう二度と描けない。だが今は、これまで触れてきた様々なものによって形作られた自分の感覚から、生み出される表現がある。自分が好きな時に、好きなものを描く。だからそれは、その時の木村にしか描けないものになる。 もともとギャラリースペースだった店舗の壁に飾られる絵は、すべて黒いペン一本で描かれている。そのモノトーンの佇まいには、見る人の感性によって受け止め方が変わるような余白がある。その余白こそが木村自身がアートを楽しむ感覚であり、mù_の洋服が持つ自由さと、自然と重なっていく。   -アート作品の発売に至った経緯を教えてください。 木村:今の店舗は、以前ギャラリーとして使われていた物件なんです。その場所の歴史を活かしたくて、もともと壁にあった穴や額縁を飾るための線もあえてそのまま残して使っています。 最初はデザイン画や落書き、コピー用紙に描いたイラストを飾っていただけで。でも、それを見た海外のお客様や若いカップルから「描いた人に会いたい」「この絵を譲ってほしい」という声をいただいて。 服以外のクリエイティブにも興味を持ってくださる方がいるなら、ちゃんと描いたものを届けたいと思い、本格的に描き始めたのがきっかけです。   -昔から絵を描くが好きだったんですか? 木村:幼稚園の頃から大好きでした。小学校の時に大阪府知事賞をもらったことがあって。 美術の専門的な勉強はしていないんですが、独学だからこそセオリーに縛られず、自由に描けるという面があると思っています。 絵を描くことが自分の創作の原点で、もし絵が好きでなければ今の仕事もしていなかったかもしれないですね。   -手で描くことにこだわっている理由は? 木村:デザインも手書きから始めるんですけど、手で描くという作業は自分の創作においてすごく重要で。 デジタルだと脳で想像したものがツールを介して綺麗に処理されすぎてしまって、微妙なニュアンスが薄れてしまう気がするんです。手書きのほうが、脳から手への伝達がダイレクトな気がしていて。例えば、服のデザインで柔らかさや質感を出したいとき、線の引き方ひとつに込める思いが、手書きのほうがそのまま出てくる感じがします。   -影響を受けたアーティストはいますか? 木村:ジェイミー・リードがすごく好きで、シリアルナンバー入りの作品を持ってるくらい。セックス・ピストルズのアートワークで知られている人ですけど、1970年代のパンクスピリットにある、世の中に対する皮肉やジョーク、既成概念を崩すような表現にずっと共感していて。単に綺麗で正しいものよりも、どこかひねりがあったり、一見グロテスクなものをかっこよく見せたりする世界観が好きなんです。 そういうものに触れてきたことが、今の自分の感覚を作っているひとつだと思います。   -作品作りで意識していることはありますか? 木村:展示では、一人の人間が描いたように見えないことを意識しています。リアルなタッチもあればアニメ調もあって、まるで多重人格者がそれぞれ描いた集合展のような多様性を出したいと思っていて。ただ、全部その時の自分の頭の中から出てきたものなので、集めてみると案外ひとつに繋がっていたりします。 描きたいものを描くというのが一番の基本で、打算的なものが入ると自分が伝えたいものとは違うものができてしまう。自分のスニーカーに落書きするような感覚と基本的には同じです。   -白黒のペンにこだわっている理由は? 木村:見ている人に自由に想像してほしいから、というのが一番の理由です。 服作りにおける余白を残すという考えと同じで、色をつけてしまうとみる人の想像がそこに誘導されてしまう。モノクロにすることで、見る人それぞれが自分の好きな色を想像して、パーソナルな感覚で受け取ってくれたらいいなと。 自分がアートを見るときも、説明を読む前にまず自分で想像して、その後に背景を調べて答え合わせをするような見方をしているので、自分が作る絵もそうあってほしいという感じですね。...

日本のデニムを使う価値。職人が紡いできた歴史と、次の時代のヴィンテージへの想いを込めたオリジナルデニム | mù_

日本のデニムを使う価値。
職人が紡いできた歴史と、次の時代のヴィンテージへの想いを込めたオリジナルデニム

木村がデニムの携わってきた年数は20年以上。その間に手掛けたデニムは、加工も含めると200を超える。そんな木村が、mù_でデニムを作るときに選んだのは、日本の生地だった。 見ためは無骨なのに、穿いた瞬間に驚くほど柔らかい。そのギャップを生み出しているのは、1950年代の精紡機で撚られた緯糸だ。古い機械が生む糸の緩みが、ヘビーオンスでありながら柔らかいという、相反する要素を一枚の生地に宿す。 そしてこのデニムには、もう一つの想いが込められている。 「今作っているものが、将来ヴィンテージになってほしい。」 木村はそう語る。 セルビッジという王道の製法をあえて外し、現代の機械と技術を使って作ることで、この時代にしか作れないデニムを目指している。   -デニムパンツの第二弾ですが、前作との違いから教えてください。 木村:前回のピンタックデニムトラウザースは、生地の柔らかさを活かしながら、比較的すっきりとしたシルエットで作りました。 今回はその逆で、ワイドなシルエットにすることで、この生地が持つドレープ性をより前面に押し出しています。体に対して生地が余る分、それが柔らかさとなって出てくる。 そういうデニムを作りたかったんです。   -この生地の特徴を改めて教えてください。 木村:緯糸に1950年代の精紡機で撚った糸を使っているんですが、古い機械で作った糸って、締まりが少し弱い傾向があって。 その特性を使うことで、生地自体はしっかりしているんだけど、通常のデニムよりも柔らかい風合いに仕上がるんです。 見た目は無骨なのに穿いてみると驚くほど柔らかい。そのギャップがこの生地の一番の特徴です。   -あえてセルビッジを使わなかった理由は? 木村:セルビッジはものすごく好きだし、価値のあるものだと思っています。ただ、自分がデザインするってなったときに、今世界的にセルビッジが注目されているからこそ、あえてそこを外したかった。 セルビッジではなくダブル幅のデニムを使いながら、内側のロック始末にメローロックを採用することで、セルビッジのような脇の表情を現代的な技術で表現しています。 オマージュというか、リスペクトを込めた上で、新しい解釈でやってみようという感じです。   -「次のヴィンテージ」という発想についても聞かせてください。 木村:今ヴィンテージと言われるものって、作った人たちがヴィンテージになろうと思って作ったわけじゃないと思うんです。 実用的に作ったものが、時間をかけて受け継がれてヴィンテージになっていった。であれば、今この時代に現代の機械と技術で作ったものが、100年後にヴィンテージと呼ばれる可能性があるんじゃないかと。あえてセルビッジという昔の製法ではなく、今だからこそできる作り方で作っているのはそういう想いがあるからです。   -色へのこだわりも教えてください。 木村:日本のデニムって、藍の中でも少しグリーンに触れるような深い色が多いんですけど、僕が好きなのはアメリカの王道的な、少し赤みに触れるような色合いで。 今回はその赤みのある青みを選びながら、でも軽くなりすぎないように深みも持たせています。柔らかさや軽さは赤みで表現して、無骨な重厚感は色の深さで表現する。 その両方をひとつのインディゴの色の中に収めた感じです。...

日本のデニムを使う価値。
職人が紡いできた歴史と、次の時代のヴィンテージへの想いを込めたオリジナルデニム

木村がデニムの携わってきた年数は20年以上。その間に手掛けたデニムは、加工も含めると200を超える。そんな木村が、mù_でデニムを作るときに選んだのは、日本の生地だった。 見ためは無骨なのに、穿いた瞬間に驚くほど柔らかい。そのギャップを生み出しているのは、1950年代の精紡機で撚られた緯糸だ。古い機械が生む糸の緩みが、ヘビーオンスでありながら柔らかいという、相反する要素を一枚の生地に宿す。 そしてこのデニムには、もう一つの想いが込められている。 「今作っているものが、将来ヴィンテージになってほしい。」 木村はそう語る。 セルビッジという王道の製法をあえて外し、現代の機械と技術を使って作ることで、この時代にしか作れないデニムを目指している。   -デニムパンツの第二弾ですが、前作との違いから教えてください。 木村:前回のピンタックデニムトラウザースは、生地の柔らかさを活かしながら、比較的すっきりとしたシルエットで作りました。 今回はその逆で、ワイドなシルエットにすることで、この生地が持つドレープ性をより前面に押し出しています。体に対して生地が余る分、それが柔らかさとなって出てくる。 そういうデニムを作りたかったんです。   -この生地の特徴を改めて教えてください。 木村:緯糸に1950年代の精紡機で撚った糸を使っているんですが、古い機械で作った糸って、締まりが少し弱い傾向があって。 その特性を使うことで、生地自体はしっかりしているんだけど、通常のデニムよりも柔らかい風合いに仕上がるんです。 見た目は無骨なのに穿いてみると驚くほど柔らかい。そのギャップがこの生地の一番の特徴です。   -あえてセルビッジを使わなかった理由は? 木村:セルビッジはものすごく好きだし、価値のあるものだと思っています。ただ、自分がデザインするってなったときに、今世界的にセルビッジが注目されているからこそ、あえてそこを外したかった。 セルビッジではなくダブル幅のデニムを使いながら、内側のロック始末にメローロックを採用することで、セルビッジのような脇の表情を現代的な技術で表現しています。 オマージュというか、リスペクトを込めた上で、新しい解釈でやってみようという感じです。   -「次のヴィンテージ」という発想についても聞かせてください。 木村:今ヴィンテージと言われるものって、作った人たちがヴィンテージになろうと思って作ったわけじゃないと思うんです。 実用的に作ったものが、時間をかけて受け継がれてヴィンテージになっていった。であれば、今この時代に現代の機械と技術で作ったものが、100年後にヴィンテージと呼ばれる可能性があるんじゃないかと。あえてセルビッジという昔の製法ではなく、今だからこそできる作り方で作っているのはそういう想いがあるからです。   -色へのこだわりも教えてください。 木村:日本のデニムって、藍の中でも少しグリーンに触れるような深い色が多いんですけど、僕が好きなのはアメリカの王道的な、少し赤みに触れるような色合いで。 今回はその赤みのある青みを選びながら、でも軽くなりすぎないように深みも持たせています。柔らかさや軽さは赤みで表現して、無骨な重厚感は色の深さで表現する。 その両方をひとつのインディゴの色の中に収めた感じです。...

mù_の偽物を作る?木村が仕掛けるアンオフィシャルな遊び。 | mù_

mù_の偽物を作る?
木村が仕掛けるアンオフィシャルな遊び。

ブランドがスタートする前から、木村の頭の中にずっとしまい込まれていたアイデアがあった。それが「ブート」だ。 古着屋で見かける、精巧なのか雑なのかよくわからない偽物のTシャツ。バンドのライブグッズに混じった非公式のプリントもの。 偽物が存在するということは、本物がそれだけ誰かに羨まれ、リスペクトされているということだ。木村はそこにある種の憧れを感じてきた。 mù_はまだ規模の小さいブランド。今の状況で偽物が出回るかといえば、誰も作ってくれない。 であれば、自分たちで作ってしまえ。そんな発想から生まれたのが、今回のポップアップイベントでひっそりと古着に紛れ込むアンオフィシャルなアイテムだ。   -このアイデア、いつ頃からあったのか? 木村:ブランドをスタートする前からです。 フリーマーケットに参加して、その中に偽物を紛れ込ませるっていう構想はあったんですけど、何をしたら一番面白いんだろうっていうところがなかなか繋がらなくて。   -今回のポップアップイベントがそのきっかけになった? 木村:そうです。4月24日から26日の3日間、うちの実店舗の地下1階で「ファッション一郎」の古着のポップアップイベントをやることになって。 そのときにずっと温めていたこのアイデアと繋がったんです。古着の中にブートが紛れ込んでるっていう、古着屋でよく見る光景を自分たちで演出できるなと。ようやく引き出しを開けられるって感じでした。   -なぜ「偽物」にこだわるんでしょう? 木村:偽物が作られるって、それだけ本物がすごいことになってる証拠だと思うんです。 誰も知らないものの偽物は作らない。バンドのTシャツでも有名ブランドでも、偽物が出回るってことはそこへのリスペクトがある。うちのブランドはまだそこまで達していないので、であれば自分たちで作ってしまおうと。ちょっと情けない嫉妬心も含めて、いつかそうなりたいっていう希望も込めて。   -アイテムの作り方もあえて変えてるんですか? 木村:そうです。 うちのブランドって生地の選定からパターンも一から作るのが基本なんですけど、今回はあえてその真逆で。 よくライブグッズなんかで見るような市販のボディにプリントするっていう作り方にしています。プリントの入れ方もあえて一回刷りにして、ちょっとムラになるようにして。素人が版を作って刷りましたみたいな雰囲気を出したくて。   -アートワークのこだわりも聞かせてください。 木村:自分が絶対やらないことをやる、というのが基準で。 カタカナで「ム」を使ったり、「TOKYO JAPAN」を入れたり。僕がデザインするときには絶対使わない表現なんです。でも、それがブートっぽい絶妙なダサさになる。自分は好きだけど、このブランドの中には入れないものを意図的に詰め込んでる感じですね。   -これは本物なんですか、偽物なんですか? 木村:僕の中では偽物です。だからといって偽物だから買わないでくださいってわけではなくて。ただ、うちのお客様が買っていただいて、次にお店に来た時には、僕らは「これ偽物ですよ。」って言う。でも、同じデザイナーがデザインしてるんですけどね。意味がわからないですよね。...

mù_の偽物を作る?
木村が仕掛けるアンオフィシャルな遊び。

ブランドがスタートする前から、木村の頭の中にずっとしまい込まれていたアイデアがあった。それが「ブート」だ。 古着屋で見かける、精巧なのか雑なのかよくわからない偽物のTシャツ。バンドのライブグッズに混じった非公式のプリントもの。 偽物が存在するということは、本物がそれだけ誰かに羨まれ、リスペクトされているということだ。木村はそこにある種の憧れを感じてきた。 mù_はまだ規模の小さいブランド。今の状況で偽物が出回るかといえば、誰も作ってくれない。 であれば、自分たちで作ってしまえ。そんな発想から生まれたのが、今回のポップアップイベントでひっそりと古着に紛れ込むアンオフィシャルなアイテムだ。   -このアイデア、いつ頃からあったのか? 木村:ブランドをスタートする前からです。 フリーマーケットに参加して、その中に偽物を紛れ込ませるっていう構想はあったんですけど、何をしたら一番面白いんだろうっていうところがなかなか繋がらなくて。   -今回のポップアップイベントがそのきっかけになった? 木村:そうです。4月24日から26日の3日間、うちの実店舗の地下1階で「ファッション一郎」の古着のポップアップイベントをやることになって。 そのときにずっと温めていたこのアイデアと繋がったんです。古着の中にブートが紛れ込んでるっていう、古着屋でよく見る光景を自分たちで演出できるなと。ようやく引き出しを開けられるって感じでした。   -なぜ「偽物」にこだわるんでしょう? 木村:偽物が作られるって、それだけ本物がすごいことになってる証拠だと思うんです。 誰も知らないものの偽物は作らない。バンドのTシャツでも有名ブランドでも、偽物が出回るってことはそこへのリスペクトがある。うちのブランドはまだそこまで達していないので、であれば自分たちで作ってしまおうと。ちょっと情けない嫉妬心も含めて、いつかそうなりたいっていう希望も込めて。   -アイテムの作り方もあえて変えてるんですか? 木村:そうです。 うちのブランドって生地の選定からパターンも一から作るのが基本なんですけど、今回はあえてその真逆で。 よくライブグッズなんかで見るような市販のボディにプリントするっていう作り方にしています。プリントの入れ方もあえて一回刷りにして、ちょっとムラになるようにして。素人が版を作って刷りましたみたいな雰囲気を出したくて。   -アートワークのこだわりも聞かせてください。 木村:自分が絶対やらないことをやる、というのが基準で。 カタカナで「ム」を使ったり、「TOKYO JAPAN」を入れたり。僕がデザインするときには絶対使わない表現なんです。でも、それがブートっぽい絶妙なダサさになる。自分は好きだけど、このブランドの中には入れないものを意図的に詰め込んでる感じですね。   -これは本物なんですか、偽物なんですか? 木村:僕の中では偽物です。だからといって偽物だから買わないでくださいってわけではなくて。ただ、うちのお客様が買っていただいて、次にお店に来た時には、僕らは「これ偽物ですよ。」って言う。でも、同じデザイナーがデザインしてるんですけどね。意味がわからないですよね。...

「ジャケットを作ろうと思ったわけではない。」生地への想いから生まれた、mù_初のジャケット | mù_

「ジャケットを作ろうと思ったわけではない。」
生地への想いから生まれた、mù_初のジャケット

「ジャケットを作ろうと思ったわけではない。」 ブランドとして初のジャケットについて、木村に聞くと最初にそんな言葉が出てきた。 ブランドの定番であるEASY TROUSERS(イージートラウザース)とPOSTMAN BAG(ポストマンバッグ)にも使われている、ニドムバイオ加工を施したTC素材で羽織れるアイテムを作りたい。 スタートはあくまでも生地であり、その生地を活かすためのデザインを突き詰めていったときに、最終的にこの形にたどり着いたのだという。 着る人によって違って見える。 EASY TROUSERSでもそうだったが、この生地を活かすために木村がこだわっていることだ。パッと見はジャケット。でも決して堅苦しくない。少し力の抜けたリラックスしたラフさを持たせている。 きっちり見えながらも、どこか着崩して見える。その自由さが、それぞれのスタイルに馴染んでいく。   -ブランド初のジャケット 木村:ジャケットを作りたかったわけではないんです。 EASY TROUSERSとPOSTMAN BAGで使っている生地で、羽織れるようなアウターを作りたいっていうのがスタートで。 そうなったときに、せっかくならEASY TROUSERSとセットアップで合わせられるといいなと。生地の特徴を活かすために、ラフさと上品さを併せ持ったものを考えていったら、こういうデザインになりました。 アイテム名にジャケットとついているので、ジャケットはジャケットなんですけど、僕の中ではラペルの付いた羽織もの、という感覚に近いですね。   -改めてこの生地の特徴は? 木村:この生地は本当に気に入ってるんです。 古着好きが見ると上品に映るのに、かっちりした服を着る人には気が抜けて見える。同じものが、見る人によって違って見える。そんな素材だと思っています。 丈夫でハリのあるTC素材に、コシを抜く加工を施すことで生地本来の特徴を担保しながら、カジュアルな佇まいの中に柔らかで上品なドレープを纏わせています。 うちのブランドを象徴する生地ですね。   -その生地を活かすために工夫したことは? 木村:EASY TROUSERSでは、イージーパンツの履き心地を持ちながらスラックスのような上品さを表現することで、この生地が持つラフさと上品さの両面を引き出しました。 今回のジャケットでも同じ考え方で、カジュアルな作りの中にテーラードの要素を取り入れることで、その両面を表現しています。...

「ジャケットを作ろうと思ったわけではない。」
生地への想いから生まれた、mù_初のジャケット

「ジャケットを作ろうと思ったわけではない。」 ブランドとして初のジャケットについて、木村に聞くと最初にそんな言葉が出てきた。 ブランドの定番であるEASY TROUSERS(イージートラウザース)とPOSTMAN BAG(ポストマンバッグ)にも使われている、ニドムバイオ加工を施したTC素材で羽織れるアイテムを作りたい。 スタートはあくまでも生地であり、その生地を活かすためのデザインを突き詰めていったときに、最終的にこの形にたどり着いたのだという。 着る人によって違って見える。 EASY TROUSERSでもそうだったが、この生地を活かすために木村がこだわっていることだ。パッと見はジャケット。でも決して堅苦しくない。少し力の抜けたリラックスしたラフさを持たせている。 きっちり見えながらも、どこか着崩して見える。その自由さが、それぞれのスタイルに馴染んでいく。   -ブランド初のジャケット 木村:ジャケットを作りたかったわけではないんです。 EASY TROUSERSとPOSTMAN BAGで使っている生地で、羽織れるようなアウターを作りたいっていうのがスタートで。 そうなったときに、せっかくならEASY TROUSERSとセットアップで合わせられるといいなと。生地の特徴を活かすために、ラフさと上品さを併せ持ったものを考えていったら、こういうデザインになりました。 アイテム名にジャケットとついているので、ジャケットはジャケットなんですけど、僕の中ではラペルの付いた羽織もの、という感覚に近いですね。   -改めてこの生地の特徴は? 木村:この生地は本当に気に入ってるんです。 古着好きが見ると上品に映るのに、かっちりした服を着る人には気が抜けて見える。同じものが、見る人によって違って見える。そんな素材だと思っています。 丈夫でハリのあるTC素材に、コシを抜く加工を施すことで生地本来の特徴を担保しながら、カジュアルな佇まいの中に柔らかで上品なドレープを纏わせています。 うちのブランドを象徴する生地ですね。   -その生地を活かすために工夫したことは? 木村:EASY TROUSERSでは、イージーパンツの履き心地を持ちながらスラックスのような上品さを表現することで、この生地が持つラフさと上品さの両面を引き出しました。 今回のジャケットでも同じ考え方で、カジュアルな作りの中にテーラードの要素を取り入れることで、その両面を表現しています。...

SUPIMA COTTON LOOP BACK-15年来 付き合いのある職人と作り上げた、mù_の思想を体現するオリジナル生地 | mù_

SUPIMA COTTON LOOP BACK
-15年来 付き合いのある職人と作り上げた、mù_の思想を体現するオリジナル生地

「服は生地からできている」 mù_が掲げるこのコンセプトを、最も純粋な形で体現した生地が完成した。 その名は「SUPIMA COTTON LOOP BACK」。 デザイナー木村が15年以上の付き合いを持つ和歌山 ニッターの職人と共同開発したオリジナル生地だ。今回、この生地を使ってスウェットとパーカーの2型をリリースする。表面にはヴィンテージの武骨さ、裏面にはカシミヤのような滑らかさ。 相反する要素を一枚の生地に閉じ込めた、mù_らしい一着が誕生した。   -この生地を作ろうと思ったきっかけは? 木村:ずっと作りたかった生地なんです。見た目は粗野で武骨なのに、着た瞬間に驚くほど柔らかい。そのギャップをスウェットやパーカーで表現したかった。 普通、こういう裏毛の生地って、表にいい生地を持ってきて、裏側はコストを抑えるために安い生地を使うことが多いんです。でも僕は逆にした。表は粗野な雰囲気にして、裏側にこそいい生地を使う。なぜかというと、着た時にテンションが上がるっていうのを大事にしているからです。   -表面の生地について教えてください 木村:表には空紡糸という、撚糸の段階で糸の真ん中が空洞になっている糸を使っています。さらにスラブ糸なので、節のある凹凸感が出る。空紡糸によってカラっと乾いたような、脂の抜けきった雰囲気が生まれるんです。昔の機械で作られたようなヴィンテージの武骨感を出したかった。   -裏面は? 木村:裏側には繊維長の長いスーピマを使っています。カシミヤのような滑らかな肌触りで、高級な綿を羽織ってる感覚を担保したかった。この表と裏のギャップがすごく重要で、着心地が柔らかいことで、手に持った時よりも着た時のほうが軽く感じられるんです。だから着心地がめちゃくちゃいい。   -この生地は和歌山のニッターさんと作ったそうですね 木村:はい。以前のブランドからもう15年以上の付き合いになる職人さんです。僕はいろんな生地のアイデアを考えるのが好きで、職人さんを驚かせたいと常々思っているから、普通じゃやらないようなことも提案するんです。でも、それを実際に形にするには職人さんの理解が必要で、僕の感覚的なアイデアを理解してくれる人じゃないと難しい。特に編み物ってすごく奥が深いので簡単じゃないんですが、この人は昔から僕のアイデアを具現化するのがとてもうまくて、思い描いた以上のものを作ってくれる。絶大な信頼を置いています。 今回も話をしたときに僕のアイデアに共感してくれて、「面白いものができそうだからぜひやってみたい」と乗ってくれた。本当に感謝しています。   -黒へのこだわりも強いと聞きました 木村:そうですね。僕もニッターさんも、アイデアの段階でこういう生地ができるよねってなったときに、「じゃあ、この生地を活かすためにはすごく深い黒を入れたい」っていう共通の思いを持ったんです。 化学繊維やウールに比べると、こういう編み物の綿って黒の入り方がどうしても薄くなる傾向にあって。今回、リッチな雰囲気を出すために深くて濃い黒にしたかったので、それができる染工場で染めました。これはどこでもできることじゃなくて、日本でも限られた染工場でしかできない。黒の出方にすごくこだわっている工場で、国内外の有名ブランドも使っているところです。   -この生地でスウェットとパーカーの2型を作った理由は? 木村:この生地の魅力を一番引き出せるアイテムは何かって考えたときに、やっぱりスウェットとパーカーだったんです。どちらも定番アイテムだからこそ、生地の違いがダイレクトに伝わる。それと、この2型は別々に考えたんじゃなくて、作っている段階でクロスオーバーしながらこの形になったんです。それを表現するために、一般的にはパーカーに見られるカンガルーポケットをあえてスウェットのほうに付けて、パーカーには脇にポケットを付けています。...

SUPIMA COTTON LOOP BACK
-15年来 付き合いのある職人と作り上げた、mù_の思想を体現するオリジナル生地

「服は生地からできている」 mù_が掲げるこのコンセプトを、最も純粋な形で体現した生地が完成した。 その名は「SUPIMA COTTON LOOP BACK」。 デザイナー木村が15年以上の付き合いを持つ和歌山 ニッターの職人と共同開発したオリジナル生地だ。今回、この生地を使ってスウェットとパーカーの2型をリリースする。表面にはヴィンテージの武骨さ、裏面にはカシミヤのような滑らかさ。 相反する要素を一枚の生地に閉じ込めた、mù_らしい一着が誕生した。   -この生地を作ろうと思ったきっかけは? 木村:ずっと作りたかった生地なんです。見た目は粗野で武骨なのに、着た瞬間に驚くほど柔らかい。そのギャップをスウェットやパーカーで表現したかった。 普通、こういう裏毛の生地って、表にいい生地を持ってきて、裏側はコストを抑えるために安い生地を使うことが多いんです。でも僕は逆にした。表は粗野な雰囲気にして、裏側にこそいい生地を使う。なぜかというと、着た時にテンションが上がるっていうのを大事にしているからです。   -表面の生地について教えてください 木村:表には空紡糸という、撚糸の段階で糸の真ん中が空洞になっている糸を使っています。さらにスラブ糸なので、節のある凹凸感が出る。空紡糸によってカラっと乾いたような、脂の抜けきった雰囲気が生まれるんです。昔の機械で作られたようなヴィンテージの武骨感を出したかった。   -裏面は? 木村:裏側には繊維長の長いスーピマを使っています。カシミヤのような滑らかな肌触りで、高級な綿を羽織ってる感覚を担保したかった。この表と裏のギャップがすごく重要で、着心地が柔らかいことで、手に持った時よりも着た時のほうが軽く感じられるんです。だから着心地がめちゃくちゃいい。   -この生地は和歌山のニッターさんと作ったそうですね 木村:はい。以前のブランドからもう15年以上の付き合いになる職人さんです。僕はいろんな生地のアイデアを考えるのが好きで、職人さんを驚かせたいと常々思っているから、普通じゃやらないようなことも提案するんです。でも、それを実際に形にするには職人さんの理解が必要で、僕の感覚的なアイデアを理解してくれる人じゃないと難しい。特に編み物ってすごく奥が深いので簡単じゃないんですが、この人は昔から僕のアイデアを具現化するのがとてもうまくて、思い描いた以上のものを作ってくれる。絶大な信頼を置いています。 今回も話をしたときに僕のアイデアに共感してくれて、「面白いものができそうだからぜひやってみたい」と乗ってくれた。本当に感謝しています。   -黒へのこだわりも強いと聞きました 木村:そうですね。僕もニッターさんも、アイデアの段階でこういう生地ができるよねってなったときに、「じゃあ、この生地を活かすためにはすごく深い黒を入れたい」っていう共通の思いを持ったんです。 化学繊維やウールに比べると、こういう編み物の綿って黒の入り方がどうしても薄くなる傾向にあって。今回、リッチな雰囲気を出すために深くて濃い黒にしたかったので、それができる染工場で染めました。これはどこでもできることじゃなくて、日本でも限られた染工場でしかできない。黒の出方にすごくこだわっている工場で、国内外の有名ブランドも使っているところです。   -この生地でスウェットとパーカーの2型を作った理由は? 木村:この生地の魅力を一番引き出せるアイテムは何かって考えたときに、やっぱりスウェットとパーカーだったんです。どちらも定番アイテムだからこそ、生地の違いがダイレクトに伝わる。それと、この2型は別々に考えたんじゃなくて、作っている段階でクロスオーバーしながらこの形になったんです。それを表現するために、一般的にはパーカーに見られるカンガルーポケットをあえてスウェットのほうに付けて、パーカーには脇にポケットを付けています。...

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